名古屋高等裁判所 昭和28年(う)1021号・昭28年(う)1022号 判決
被告人吉田一の弁護人Aの控訴趣意第二点、被告人広浜徳松の弁護人Bの控訴趣意について記録を精査し原判決がその判示第二の封印無効の事実の証拠として挙示する証拠の内容を検討し更に当審における証人吉田一夫、同吉田きようの証人尋問調書の記載内容を参酌すれば被告人吉田一は昭和二十五年七月中名古屋拘置所在監中原判決摘示の如き同被告人保管の物件につき同判決認定の如き、仮処分の執行をうけ執行吏の手において同認定の如き公示の為の標示書を貼布されその保管を命ぜられ、之が保管を為すに至つたが拘置所に在監中面会に来た家人から右の事実を聞知し仮処分執行の事実を知り同月末頃出所したが右標示書は同被告人が出所するに先ち既に長男吉田一夫の手において故らに剥離して之を損壊していた事実及び同被告人の出所後原判示日時頃同被告人は被告人広浜徳三方に右仮処分にかかる物件を搬出移転したこと、被告人広浜も亦右搬出移転を為すに先ち前記の如き仮処分をうけている事実を諒知していた事実を認定するに足る。各論旨はそれぞれ右仮処分の標示は右一夫が之を剥離して損壊したことにより既に無効に帰したものであるから、その後被告人等がその仮処分にかかる原判決摘示の如き物件を搬出移転しても最早本罪を構成するものではない旨縷々陳述するから按ずるに、もともと刑法第九十六条の罪は公務員の施した封印又は差押の標示を損壊し又はその他の方法を以つて封印又は標示を無効ならしめることによつて成立する犯罪であつて、公務の執行を妨害する罪の一類型を成すものであるから同条にいわゆる封印又は標示を無効ならしめた者とは、封印又は標示を物質的に破棄、剥離等の方法により公務員の施した封印又は標示により達しようとする公務の執行を妨害する場合の外如何なる方法を以つてするとを問わずその効果を滅却し侵害し減殺し妨害する結果を生ぜしめる場合は凡て本条の罪を以つて問擬すべきものと解すべきである。而して本件の場合は原判決認定の如く公務員たる執行吏が適法に仮処分の執行を為し、仮処分の執行による公示の標示を施したことが明白であり仮処分の執行の標示は同条にいわゆる差押の標示に該ることは一点疑の存しないところである。従つて本件の場合における被害法益は公務員たる執行吏が為した仮処分の執行を円滑に遂行し之を確保することにあると解すべきであるからその効果を滅却、減殺するが如き所為はもとより本罪を構成するものと謂わなければならない、而して前説明の如く被告人吉田一の長男一夫が前記標示を剥離し、仮処分の執行を妨害する行為を為した後であつても仮処分の効力は依然として適法に存続していることは明白であるから前記の如く被告人等が仮処分の執行を受けた物件であることを知り乍ら何等適式に仮処分の執行を解除するの方途を講ずることなく意思相通じて共謀の上之を原判示の如く被告人吉田一方の標示の個所より被告人広浜徳松方に搬出移転した以上仮処分執行の効果を滅却し又は少くとも之を減殺、妨害したものと解するの外はないから被告人等の所為は明かに同条にいわゆるその他の方法を以つて差押の標示を無効ならしめたものとして同条所定の犯罪を構成するものと謂わなければならない、各論旨はいづれも全く独自の見解に立脚して原審の法令の解釈並びに事実認定の措置を非難するに過ぎないからこの各論旨はいづれもその理由がない。